大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成元年(行コ)16号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正等

原判決三枚目表一一行目の「同年」を「昭和六〇年」と、同七枚目表九行目、同裏四行目の「決済」を各「決裁」と、同八枚目裏五行目の「記載」を「記録」と、同六、七行目の「当該文書記載の」を「当該文書に記録された」と、同一〇枚目表一行目の「記載の」を「に記録された」と、同一二行目、同裏一〇行目、同一二行目の「調整等」を各「調整等事務」と、同裏一行目並びに同一一枚目裏三及び四行目の「記載」を各「記録」と、同一三枚目表四行目の「記載の」を「に記録された」と、同一八枚目裏二行目の「本件文書は」を「本件文書には」と、同三行目の「情報の記載があり、」を「情報が記録されており、」と、同九行目の「記載の」を「に記録された」と各訂正する。

二  控訴人の当審における補充主張

1  本件の如き行政庁の保有する行政情報一般の公開請求については、現行憲法の解釈上、未だ抽象的な請求権たるにとどまると解するのが通説的見解であり、これを踏まえるならば、具体的な行政情報の公開請求については、法令の定めをまって初めて具体的な権利として認められ、存在することになるから、如何なる行政情報について、どの様な方法で、どの範囲、程度に、公開を認めるかは、専ら立法政策上の問題として、立法者が決定すべき問題である。したがって、具体的な行政情報の公開請求権は、立法者により法令が定められたとき、初めて当該定められたところに従い、その定めた範囲でのみ認められ、その定めるもの以外には、具体的な行政情報公開請求権は認められないと解される。

そして、府において、行政情報公開請求権の範囲、程度、行使方法等を定めたものが本件条例であるから、府において認められる公文書の公開の方法、その範囲は専ら本件条例に定められた範囲で、その定めに従ってのみ認められることになること明白なところであり、同条例上、公開除外事由が定められているものについては、その定める範囲で公開請求権が認められないのであるから、除外事由の定め毎に、その定めに忠実に従って、具体的にその範囲、程度等の検討を要すること、また明らかなところである。

なお、本件条例において、府の保有する情報は公開を原則としながらも、右の如き公開除外事由を定めたのは、情報の公開という事柄の性質、内容上からプライバシーの保護、公共の福祉の観点から、地方公共団体の行う行政事務、その他の事務事業の公正適切な遂行をなすに当たり、その保有する情報をすべて明らかにすることが、かえって公正適切な事務の遂行を妨げ、または困難にすること、若しくは住民全体の利益が損われる場合が存することを考慮して定められたものである。かかるプライバシーの保護、公共の福祉のために制限が設けられることは、情報の公開という事柄の性質上、合理的・妥当なものであり、かつこれが行政情報の公開について、前記の如き我が国現行法制上の位置付け並びにこれが立法者の立法政策上の問題として任意裁量に属することからもまた、容易に首肯し得るところである。

2  そこで、府において認められる公文書の公開は、本件条例において、具体的に如何なる範囲において認められているかについては、既に主張しているのであるが、この点につきさらに敷衍する。

(一) 本件条例は、府の保有する情報は公開を原則としながらも、それを公開する仕組として、公開請求を受けた実施機関が、請求情報の記録された公文書を探し出して特定し、特定された公文書(以下「対象文書」ともいう。)によって情報の公開を行うものと定める。したがって、請求情報を記録した公文書が存在しないときは、その公開が行われないことはいうまでもない。本件では請求情報のうち、出席者名を記録した公文書が存在しなかったので、この取扱いがなされた。

(二) 次に、本件条例は、かかる特定された対象文書をすべてそのまま公開すべきものとはせず、適用除外事由として、八条の一号から六号に各該当する情報を具体的に明示し、対象文書に記録されている情報が右各号に該当する場合には、当該文書を公開しないことができるとなし、また、九条の一号から三号に各該当する情報を具体的に明示して、記録された情報が右各号に該当する場合には、当該文書を公開してはならないと定めた。したがって、実施機関は、対象文書が八条各号掲記の情報に該当する場合には、公開するかしないかを任意、裁量によって決定する処分権能を与えられているのであり、他方、右の定めの限りで対象文書の公開請求権は存在しないといわなければならないのである。

3  右のとおり、本件条例は、その八条及び九条に該当する情報が記録されている公文書を公開の対象から除外することを定めているので、右公開請求権の存否を判断するには、次に、その対象文書に記録された情報が八条または九条に該当するかどうかの検討、判断が必要となるところ、その記録された情報において、如何なる情報が、如何程、如何様に存しているかについては、その情報の質、量、内容等を拾いあげ、取りまとめて把握したうえで、これが掲記の情報に該当するか否かを検討することが必要であることは明らかである。

そして、右検討の対象たる情報は、その有する本質的性格、作用の多面的多様性、複雑な機能等から、多様な態様において存在し、その求める時、所等によっても、質、量、内容が変化するものである。例えば、これを文書一つについてみても、多種多様な情報が種々の態様において内在し、内包されている。すなわち、文書上の文字、数字、図形等、文書の内容から客観的にかつ明示的に表出、感得されるもののみが文書に存在する情報ではなく、文書の存在自体、所在場所、形状、形式、形象、状態等、有形的、顕在的に存在するものはもとよりのこと、文書の作成者、作成目的、作成時期、作成経過、作成根拠、文書の性質、記載された対象の性質、文書相互の相関関係等、無形的、潜在的にその文書に付随して存在するものも、当該文書に内在し内包される情報であり、それらがその求める人、求め方、求める時によってその質、量を変化させるものである。そして、記録された情報の把握、該当性検討において拾いあげ、とりまとめ、判断されなければならないのは、右の如き当該文書に内在し内包される、その時のその求められ方における情報すべてであり、これらの質、量、内容を一括して総合し、当該文書に記録された情報を把握した上で、この把握した情報が所定の情報に該当するか否かの検討をするのが、本件条例の定める公文書公開の仕組というべきであるし、これが、情報の公開という事柄の性質からみて妥当なものというべきである。けだし、情報はその本質上、非公開により保護すべき利益、目的がある場合に、一旦公開されると、その保護利益、目的の喪失を回復することが不可能だからである。

それ故、控訴人が対象となる文書に記録されている情報において、所定の情報が存するか否かの該当性の検討を行う前提として、記録情報を把握する場においては、右の観点からして、単に公文書記載の情報というが如き対象文書に表面上有形的に表出される情報のみをもって記録された情報と解して、これが検討、判断を行うことは誤りであり、前叙の如く無形的、潜在的に把握される情報をも拾いあげ、とりまとめ、これらを総合して認められる内容の情報を踏まえて、これらを記録された情報ととらえて判断すべきものである。

右のところを本件条例の定めからみれば、八条、九条は、いずれも「…該当する情報が記録されている公文書については…」と規定し、「記載する」とは定めていないことからも、これが妥当なものであることが裏付けられる。

しかして、本件文書は、昭和五九年一二月府水道部が開催した会議、懇談会に要した経費の各件別の支出明細を記載した支出伝票、及びその添附書類であって、その記載文言、形式等有形的、顕在的な情報をみれば、支払先、支出金額、支出年月日、請求年月日、請求明細、懇談会開催日、開催目的、出席者数(以下「支払先等」という。)が各件別に明細記載され、会議、懇談会の存在、時期、規模、目的、場所等並びにその要した費用明細が具体的に明らかになる情報を記録しているところ、これに本件文書の作成者、作成根拠、作成経過、作成目的、文書の性質、所在、形式、形状、文書記載内容の性質等文書に無形的、潜在的に附随して存在する情報を拾いあげて、記録された情報を把握するならば、本件事業(「第七次拡張事業」の略称)計画に基づいて事業を行っている府水道部が、その事業の推進、財源の確保を目的として種々の関係者と渉外、交渉、調整等をなし、また、府の行う施策の立案、推進、行財政運営上必要な調整協議のために昭和五九年一二月に開催した会議、懇談会に関する情報を形成するものであり、これが本件文書に内在され、内包された情報であると把握されるのである。

4  既述のとおり、本件条例においては、請求された情報の確認に始まり、該当性の検討に至るまでの一連の作業は、実施機関が行うものとされている。かような作業を実施機関が行うことは、請求情報を保有し、その情報の性質、内容、量等の一切を熟知するものとして、最も適切かつ十分に判断できると解されるから、妥当なものであるし、それだけに実施機関として高度の注意義務が課せられることにもなると解される。そして、その作業の結果、該当するものを見出したときは非公開とし、非公開とすることができることになるから、その対象が情報であって、その本質的性格、作用の多面的多様性、複雑な機能、多様な態様において存在するものであることと相俟って、それは自ら実施機関の該当性検討についての裁量の巾を広く大きくすることになると解するものである。このことは、該当性の検討において、特に本件条例の明文上、後記の如く「おそれ」と規定され、実施機関において将来の予測をする場合において顕著であると解される。

5  以上の観点からして、本件文書に記録された情報が八条一号に該当するものであることは、原判決事実摘示「三被告の主張」2、(一)に記載のとおりであって、本件文書に記録された情報が接客業を営む者の接客事業そのものに関する情報であって、これが右条項の要件の一つである(イ)「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であ」ることは明らかである。

次に、これがもう一つの要件である(ロ)「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」の該当性についてさらに補充すると、先ず、右(ロ)の要件の趣旨は、営業の自由の保障、公正な競争、秩序の維持等のため社会通念上、法人等の競争上の地位、その他正当な利益を害することを防止するためのものであるから、法人等の事業の性格、当該情報の内容ないし性格、法人等における当該情報の作成目的、作成経過並びに法人等の事業活動における当該情報の位置付け等、法人等と当該情報の関係、また、公開の内容及び程度、当該情報を府に提出した目的ないし経過等を総合して考慮し、判断すべきものと解するのである。

(一) しかして、本件文書に記録された情報は、接客業の特定の顧客についての取引内容であるが、時、場所、人が区分されて、取引内容たる品目、金額、単価、請求明細、値引の存否、程度、支払内容、集金状況等が個々具体的に判明するもので、これが継続し、集積されることが予想されるものである。

(二) また、接客業においては、顧客に対する信頼関係、安心感、親切、真心が、設備、料理、サービスと一体として提供され、対価を得て成立する業態と解されるものであるところ、価額、単価、品目、品数、値引明細、集金、入金経過、内容等、顧客との取引内容の具体的詳細は、接客業の営業方針、営業内容のノウハウに深くかかわるところであり、価額の設定は店の格式を決定し、その営業方針の基本となるものであって、価額とともに単価、品目、品数、値引明細の判明する情報がみだりに公開されることは、多くの接客業者の営業にとってノウハウの流出として、思わぬ困難を惹起するものであること、〈証拠〉からも明らかである。

(三) 以上によれば、接客業を営む者にとって、特定の取引内容ではあっても、請求書や領収書などにより、取引内容等が具体的に判明し、またそれが継続し、集積して営業の実体を晒されることは、その営業上のノウハウ、秘密を暴露されることにつながり、それが当該業者の正当な利益を害することになることは明らかである。

6  また、本件文書に記録された情報が八条四、五号に該当するものであることも、原判決事実摘示「三 被告の主張」2、(二)に記載のとおりであるが、さらに、これまで述べてきた観点からこれを補足すれば、この点の判断においても、本件文書に記録された情報を把握し、該当性判断をなす手法は前叙と同じであり、このことは情報の内容につき、同条四号が「調査研究…等に関する情報」、同五号が「交渉、渉外…等の事務に関する情報」との文言により規定していることからも肯認されるところであって、これらの観点からすれば、本件文書に記録された情報が、八条四、五号に該当することも、なお明らかである。

次に、右四、五号はいずれも、当該事務等を公正かつ適切に行うことについて、「著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」と規定しているところ、これについては「著しい支障が一般的に及ぶであろう可能性」、すなわち、かかる抽象的危険が存在すれば足りることを定めていると解するのが相当である。

そして、これについても、本件条例上、その判断をするのは実施機関であると定められているところ、実施機関は前記のとおり高度の注意義務を尽してその可能性、危険性を探り、検討しなければならないものであり、かかる作業において右「おそれ」が認められるときには、当該文書を非公開にできるものとしているのである。

しかして、本件文書に記録された情報は、既述のとおり、府水道部が本件事業または新たな水源確保のための新規事業の検討等の事業活動として計画を策定、実施するために、多額の財源確保と多数の関係者の理解と協力を得るための渉外、交渉、企画、調整等の会議、懇談会を開催して来たものについての、懇談会に関するものであると把握されるところ、懇談に関するものは事柄の性質上、関係者と接触し、その意向を打診し、意見を調整するなど秘匿すべき行政事務を伴って行われることが多く、右懇談の相手方、その日時、支出金額についても、これが明らかになると、秘匿すべきものが明らかにされ、他の情報と相俟って推測を生じ、その後相手方が懇談に応じなくなる等、著しい支障が生じるおそれがあることが明らかであり、本件の場合に本件文書の公開が、府水道部の行う本件事業に基づく事業の企画、調整、渉外、交渉を行うについて、関係者との信頼関係を損ない、関係者の理解と協力が得られなくなるなど、府水道部の事務、事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずるおそれがあること、〈証拠〉によって明らかなところである。

7  これに反し原判決は、上述の本件条例の仕組、内容並びに情報の特性について、理解不足からの誤解をし、これらが積み重ねられて記録された情報の把握を誤まり、また八条四、五号の明文の定めを離れて独自に定立した見地から右各号に該当する情報と解し、これを前提として、さらに明文の定めを超えて独自の基準を設け、それに基づいて、本件文書が本件条例の非公開事由に該当しないと判断をしているものであって、これが違法なものとして取り消されるべきであることは明らかである。

8  被控訴人の後記2の主張は争う。

三  被控訴人の認否及び反論

1  控訴人の二の1ないし7の主張はすべて争う。

2(一)  控訴人の主張の基本は、「文書公開請求権は条例が制定されたことにより初めて認められたものである。したがって、その公開の範囲はそれぞれの立法によって裁量的に決められるべきものであり、条文の解釈は条文自体の文理的解釈によるべきである」という点にある。そして、非公開事由の具体的判断にあたっては、文書公開による支障ないし何らかの危険性については、一般的に及ぶであろう可能性を吟味し、これが発見されれば条文を一言一句、文理どおりに解釈する立場から、直ちに非公開事由の存在を肯定するのである。その結果、控訴人の主張が行きつくところは、行政側はその立場で考えられる、ありとあらゆる可能性を探し、もし、少しでも不都合の種を見つけ出せば、これを楯にとって非公開とするという、時代錯誤的な行政姿勢に帰着するのである。

(二)  このような、控訴人の主張の根底にあるものは、封建時代ないし旧憲法時代の為政者の発想であり、かかる為政者にとって市民はうるさい存在であり、うまく手なづけるべき対象でしかなかった。善政に励む為政者であっても、せいぜい市民のために政治・行政をやってやるんだという傲慢な姿勢でしかなかった。

(三)  しかしながら、主権在民の新憲法下では市民が主人公であり、市民の信託によりその納める税金を使って、市民のための政治・行政が行なわれることになったのである。市民が出発点であり、市民の意思を反映した政治・行政が行なわれなければならず、その結果も市民が享受ないし負担するものである。

新憲法下、右のような政治原理のもとで本件条例は制定されたものである。このことはその前文において、情報公開は民主主義に不可欠なものであり、知る権利の保証に資するものであり、地方自治の発展に寄与するものであると謳われていることからも明らかである。そして、公開の範囲、あり方についても、情報はもともと市民の共有するものであり、その活用をまって市民の生活と人権を守るというのが行政のあり方であり、そのように運営されるように解釈されることが条例解釈の基本的立場である。公開請求という形で市民が府政とかかわりをもってゆくという姿が、真の公正な行政を推進し、確立するという理念であり、市民の意見を厄介扱いする考えとは全く異質である。情報公開に対する基本姿勢や運営のあり方は、その国の主権在民と民主主義、文化の成熟度を示すものといわれ、現にアメリカ等においては首長の食事代の明細を含め、金銭出費を伴う行政行為は、これを公開することが当然とされているのである。

(四)  控訴人は、原判決は、本件条例の明文の定めを超えて、独自の一般的基準を設け、かかる基準を前提として非公開事由の該当性を判断しているとして、るるこれを非難するが、右の観点からすれば、控訴人の主張は失当であり、原判決の判断は、すべて正当なものであって、本件控訴は棄却を免れない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、理由がないから、これを棄却すべきものと判断するから、次のとおり訂正、付加して原判決の理由説示を引用するほか、次項において控訴人の当審における主張に即して補足する。

1  原判決二一枚目裏一行目の「甲」の次に「第六、」を加え、同三行目の「証人」を「原審証人」と訂正し、同七行目の「基づき、」の次に「昭和二七年に創設され、」を加え、同八行目の「府水道部では、」を「府では、水道部の前身である水道建設事務所、次いで水道事務所の事業として、」と訂正する。

2  同二三枚目表一二、一三行目、同裏八行目の「決済」を各「決裁」と訂正し、同行目の「会計課長」を「総務課長を経由して、金銭出納員にも指定されている会計課長」と改め、同九行目の「回付され、」の次に「同課長において」を加える。

3  同二四枚目表一、二行目、同六行目、同七行目、同二五枚目表一行目、同一一行目から一二行目にかけての「決済」を各「決裁」と訂正する。

4  同二五枚目表三行目の「本件期間当時」の次に「、多く」を、同裏四行目の「目的欄」の次に「と同様か、これ」を各加え、同五、六行目の「目的しか記載されないと考えられる。」を「目的が記載されるのが通例であった。」と改める。

5  同二七枚目表三行目の「認められる」の次に「(府が昭和五五年一二月に発行した『情報公開制度の実現に向けて-情報公開準備研究班報告書-』中には、我が国の憲法においては、『知る権利』を保障する明文の規定はないが、国民主権に基づく民主主義の原理、表現の自由の尊重、地方自治の保障など、我が国憲法の理念からみて、憲法に保障された権利と考えるべきであること、情報公開は政治的腐敗の防止、行政の監視を大きな目的としているが、それにとどまらず市民が広く政治にその意思を反映させるには、その前提として情報公開による情報の入手が不可欠であり、市民の情報入手が阻害されていては、民主主義の発展はありえないこと、府は、『開かれた府政』、『参加と連帯の府政』を府政運営の基本としており、府民が単に府政の受益者としてではなく、その主体的な担い手として、自らの意見を十分府政に反映させ、参加をして行くには、情報公開により、府政に対する十分な理解、認識を持つことが必要不可欠であること、等を明記しており、これによれば、本件条例においては、これとややその趣きを異にする点はあるものの、その制定に際しては、右の如き基本的な理念、目的、認識の下にその準備が進められたものであることが容易に推認できる。)」を加える。

6  同二七枚目表四行目から同二八枚目裏三行目までを「(二)右の見地に立って本件条例につき考察すると、府が保有する情報は公開を原則としながらも、その八条一号ないし六号において、公開しないことができる公文書を列記し、またその九条一号ないし三号において、公開してはならない公文書を列記しているところ、それらの各非公開事由に該当するか否かの判断は、個人のプライバシー等の保護には最大限の努力を払いつつも、条文の趣旨に即し、厳格に解釈されなければならないことはいうまでもなく、殊に主として府の行政執行上の利益の保護を図って制定されたと考えられる八条四号、五号等の解釈に当たっては、そこで保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、また、その利益侵害の程度が、単に行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されるにすぎないのか、あるいはそのようなおそれが具体的に存在するといえるのかを、客観的に検討することが必要である。けだし、一般的に情報公開条例は、過去において、行政機関の保有する文書が、行政庁側の種々の名目のもとに、ややもすれば恣意的、濫用的に秘密扱いにされ、住民の知る権利を妨げ、ひいては地方自治の健全な発展を阻害する面のあったことに鑑み、それらの弊害を除去する点をも考慮に入れて制定されたことは公知の事実といってよく、そのようにして制定された情報公開条例の非公開事由該当性を、専ら行政機関の側の利便を基準に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、ひいては情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねず、将来的、長期的にみて地方自治の健全な発展が望みえないこととなるからである。」と改める。

7  同三三枚目裏一行目の「決済」を「決裁」と訂正する。

8  同三六枚目裏九行目の「記載のような」を「に記録されているような」と改める。

9  同三八枚目裏七ないし九行目の「ある場合でなければならず、また、それらは具体的かつ客観的に明白なものでなければならないところ、」を「ある場合でなければならないところ、」と改める。

10  同三九枚目表三、四行目の「右危険性の存在が客観的に明白であるということもできない。」を「右にいう『著しい支障を及ぼすおそれ』があるということはできない。」と、同五行目の「証人」を「原審証人」と各改める。

二  控訴人は、当審において本件文書の情報が、本件条例八条一号、四、五号所定の非公開事由に該当するとして、それを基礎付ける関係事項につき詳細を極めた主張をするのであるが、その主要部分を要約すると、(一)府民による行政情報の開示請求については、これが本条例によって初めて具体的な権利として認められたものであるところ、(二)右条例に公開除外事由が定められている場合には、その範囲で公開請求権が認められないことになるのであるから、まず、その除外事由の存否が検討されることになるが、その場合には、何よりもその定めに従い、条文に忠実に検討がなされるべきであること、(三)さらにその場合には、対象文書の表面上に有形的に表示されたもののみから表出される情報のみをもって判断することは誤りであり、これに附随して存在する無形的、潜在的な情報をも拾いあげ、とりまとめ、総合してなされるべきであること、(四)そして、要するに、このような作業は、本件条例上、実施機関が行うこととされているところ、実施機関は、本来請求情報の性質、内容等の一切を熟知するものとして、最も適切に情報を把握・検討することができるのであるから、自ら高度の注意義務を負担すると同時に、幅広い裁量権を有するものであるなどというにある。

そこで、右主張に即しながら判断し、原判決の理由の説示を補足する。

1  いうまでもなく、この種の情報公開制度の運用の在り方を把握するうえで、原審が説示する理念、沿革、さらには陥り易い恣意的な傾向ないし趨勢への抑制等は、欠かすことのできない視点というべきである。

ただ、現実に府民が取得する情報公開請求権は、憲法によって直接付与されるものではなく、制度の理念の具現を指向する府が、個人のプライバシー等の保護を図りつつ、その属する行政事務の公正かつ効率的な執行との調和を考慮しながら、自ら立法政策として本件条例を制定したことにより、初めてその実体法上の根拠が与えられたものである。したがって、具体的な情報公開請求権の有無を判断するにあたっては、この観点を中心に据えながら、原審が説示する右各視点を加え、本件条例制定の趣旨を把握して判断するのでなければ、正鵠を期しえないというべきである。なお、府としては、本件条例制定の本旨実現のための解釈運用基準をも策定し(〈証拠〉)、安定した運用を図るべく努めていることが窺える。もとより、事柄の性質上この基準により、一義的に明確な解釈が可能となるものでないことはいうまでもないが、この基準をも判断の資とすべきである。

もっとも、このように考察するにしても、本件条例において情報の非公開ということが、例外として位置付けられるべきであることは動かし難いところである。したがって、公開除外事由を定める本件条例八、九条における該当性の有無の判断に当たっては、なるほど控訴人の主張するとおり、その条項に忠実に、かつ、対象文書の表面上に有形的に表出されたもののみならず、場合によってはこれに附随して存在する無形的、潜在的な情報も参酌すべきであろうが(もっとも、この参酌が恣意的に流れることのないような客観性のある運用がなされるよう特に留意されなければならない。)、それ以前に厳格な解釈が求められることはいうまでもないところである。殊に、本件のように請求の対象が、本来府民に公表されるべき公金の使途に関するものであり(地方自治法二四三条の三参照、なお、このなかには国民の税金からの支出である国の補助金なども含まれている。)、しかも、その支出に係わる者が、厳格な服務規律に基づいて職務を執行すべき立場にあること、したがって、その職務権限を行使するに当たっても、その裁量の範囲に自ずと限度があってしかるべき一般職の公務員である場合においては、尚更というべきである。

2  次に、控訴人は、前記の主張を前提に、本件公文書が八条一号に該当する旨主張し、〈証拠〉には、接客業者にとっては、本件の如き文書を公開されることにより、一般的に、顧客との信頼関係が損なわれたり、営業上のノウハウ等が侵され、ひいては接客業者の信用力の低下につながるなどとして、控訴人の右主張に沿う証言をする。

しかしながら、原判決も認定するように、本条号との関係で本件文書に記録されているのは、懇談会に使用された飲食店の場所、名称とその飲食に係る料理等の売上単価及び合計金額のみであり、それ以上に当該飲食店を経営する接客業者の営業上の有形・無形の秘密、ノウハウ等、同業者との対抗関係上、特に秘匿を要するような情報が記録されているわけではないこと、また、本件の如き請求によって、その顧客先や利用内容等のすべてが明らかにされるというものではなく、数ある顧客のなかの、しかも、地方公共団体の一部門たる府水道部の、かつ、特定の期間の利用状況が明らかにされるだけであるから、かかる事実が公表されたからといって、その営業実態のすべてが明らかとなり、取引上、営業上の秘密が侵されるということにはならないし、また、本件は、その利用をする者の側からの利用の事実を公表する場合であるから、これによって当該接客業者が社会的評価の低下等を来たすとも認め難く、かかる事情に照らせば、前掲証人今和泉明の証言によっても、前示訂正して引用した原判決の認定判断を妨げるものではなく、他に、本件文書が本件条例八条一号に該当する旨の控訴人の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

よって、この点についての控訴人の主張も失当である。

3  さらに、控訴人は、前記主張6においても、同1ないし4の主張を前提に本件文書が八条四、五号に各該当する旨主張するが、これが理由のないことは、前示訂正して引用した原判決の認定するとおりであり、当裁判所における証拠調の結果を総合しても、この認定判断を左右することはできず、他にこれを動かすに足りる証拠はない。

そうすると、この点についての控訴人の主張も失当である。

三  よって、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田 眞 裁判官 諸富吉嗣 裁判官 梅津和宏は転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 石田 眞)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例